「5ヵ年ローリングプラン」により 成長基盤の構築と収益性の改善を実現

 「5ヵ年ローリングプラン」期間中の2019年度から2023年度は、新型コロナウイルスの世界的蔓延という未曽有の事態が経済の停滞や物流の混乱を招き、私たちの生活様式や価値観は変化を余儀なくされました。自動車業界においては、100年に一度といわれる変革期を迎え、電動化や自動化など自動車の技術革新が急速に進んでいます。このような状況下で当社は、急激な事業環境の変化に対応するため、「5ヵ年ローリングプラン」によって、単年度ごとに継続的に方向性と戦略を見直しながら、各事業の収益拡大とそれを支える事業基盤の整備を進めてまいりました。この結果、国内オートバックス事業以外の連結売上高は約270億円増加し、カー用品販売以外の領域での成長基盤を構築することができました。また、2023年度はディーラー事業において連結子会社2社の株式を譲渡した影響で減収減益となりましたが、売上高営業利益率は、3.4%(2019年度)から5.0%(2022年度)へ上昇し、収益性向上についても一定程度の成果を残すことができたと認識しています。一方で、国内オートバックス事業の十分な成長が実現できていないこと、結果として降雪に伴うスタッドレスタイヤなどの冬季用品の売上への依存度が高いことが継続課題となります。
 財務面では、株主還元などによりキャッシュを必要運転資金の水準に留めるといった当初の計画は達成できましたが、ROEは5.8%(2022年度)、5.0%(2023年度)とまだまだ満足できる数値ではありません。将来に向けた投資を積極的に実施する一方で、投資収益性の低い事業は撤退も検討するなど、引き続き資本コストを超えるROEを意識し、投資収益管理の強化と事業ポートフォリオの見直しを実施してまいります。
 2023年度の業績は、連結売上高が前年同期比2.7%減少の2,298億56百万円、連結当期純利益が前年同期比12.2%減少の63億55百万円と、計画を下回る結果となりました。減収減益の大きな要因は、暖冬によりタイヤの売上が大きく低迷したことに加え、フランチャイズチェンパッケージ変更に伴いFC加盟店舗が保有している2024年度の期首在庫に対して、卸売価格引き下げ後と同水準の価格に合わせる措置を講じたため、一時的な会計処理として売上および利益に約30億円のマイナスを計上したことです。
 2024年4月より開始したフランチャイズチェンパッケージ変更では、FC加盟店舗とFCチェン本部である当社が共に小売をより一層重視する経営を実現するため、当社からFC加盟店舗への卸売価格を引き下げる一方、小売に付随するロイヤリティ料率を引き上げました。これにより、卸売で先行して利益を獲得する仕組みから、小売売上のロイヤリティで利益を得る仕組みへと変更することができました。2024年度以降は、これまで本部の収益となっていなかったFC加盟店舗のピットサービス工賃売上が、ロイヤリティとして本部の収益に加算される見込みです。また、全店舗が統一して質の高いサービスを提供できるよう、店舗のDX推進のためのコストをロイヤリティに内包する対応も徐々に進めていく計画です。

2024中期経営計画で加速的成長に向けた投資を推進

 2024年5月に中期経営計画「Accelerating Towards Excellence」(以下、中計)を発表しました。本中計策定の背景にあるのは、当社が2000年以降、カー用品市場の縮小により大きな成長を遂げられていないという事実です。お客様のモビリティの利用に欠かせない存在になること、そして、縮小する国内市場だけでなくグローバル市場においてプレゼンスを確立することが当社の再成長の鍵であるとの認識のもと、徹底した顧客視点に立ち、国内オートバックス事業の売上回復と周辺事業の加速的成長を実現するため、お客様にとっての「モビリティライフのインフラ」をグローバルで目指すことを当社の新たな方向性として定めました。
 計画策定にあたっては、連結売上高、営業利益、ROICを指標として、2026年度に連結売上高2,800億円、連結営業利益150億円、ROIC7.0%を目指すこととしました。この目標は、中計期間以降も継続的に成長するための布石をしっかりと織り込み、長期ビジョンで掲げる2032年度の目標売上高5,000億円からバックキャスティングで算出したもので、最低限目指すべき目標だと認識しており、必ず達成する決意で取り組んでまいります。
 中計期間中の投資額は、ディーラー事業、ネット事業、M&A関連の投資を中心に、累計で350億円を計画しています。3年間で段階的に投資額を引き上げていき、特にM&A投資では累計170億円を見込んでおり、非連続の成長に向け、投資機会の探索と検討を進めていきます。M&Aについては、取締役会においても、初期検討段階での審議やPMIの進捗報告を実施し、早期のシナジー発揮に向けた議論とモニタリングを行っています。引き続き、投資対効果をしっかりと発揮することを念頭に、効果検証をしながら投資判断を行っていきます。
 2024年度の連結業績計画は、売上高が前期比4.5%増加の2,403億円、当期純利益が21.2%増加の77億円を見込んでいます。これは、車齢の長寿化に伴う車検・整備、メンテナンスの需要増加と中古車買取・販売市場の拡大という市場環境に加えて、前期が暖冬だった反動で、タイヤの売上が微増となる想定をしています。下期には車検対象台数が増加タームに入るため、車検・整備、オイル、バッテリーなどが底堅く推移する見込みです。一方で、カーエレクトロニクスの低調トレンドは継続する認識です。

資本収益性向上に向けた取り組み

 当社は、資本効率の改善に向けて事業ポートフォリオの見直しを行い、経営資源を競争力のある分野へ集中させてきました。2023年度は、海外事業においてAUTOBACS FRANCE S.A.S.の不採算店舗の閉鎖や、PT AUTOBACS INDOMOBIL INDONESIAの合弁解消により収益性が改善し、海外事業全体の営業利益が黒字転換しました。
 カー用品市場が縮小する中で、今後も当社グループが持続的に成長し続けるためには、既存事業の効率改善や新陳代謝の促進に加え、成長領域への投資と新たな事業の育成が一層重要なテーマになると考えており、ROICを指標とした資本コストを重視した経営管理を進めています。2023年度は、事業別ROICの見える化によりROIC経営の基盤を構築しました。2024年度からは事業ごとのROIC目標を設定したので、今後は、事業別ROICを事業ポートフォリオ見直しの判断手段として活用することで、全社ROICの改善につなげてまいります。
 ROICの社内浸透にあたっては、事業別ROICを事業統括の業績評価の指標にするなど、ROICの人事評価指標への組み込みも進めています。今後は、ROICツリーなどによって社内浸透を図り、従業員一人ひとりの行動変容を促していきたいと考えています。
 全社ROICの目標については、2026年度7.0%を目標に掲げています。また、資本コスト(WACC)を上回るROICの維持・拡大を目指し、各事業のROIC向上に加え、成長投資に際しては他人資本を活用しながらWACCのコントロールも進めてまいります。
 当社のPBRは1.0倍前後を推移しておりますが、これは、当社グループとして将来の成長をお示しできていないことが要因だと考えています。この点については、事業投資と収益管理を通じ、各事業における収益を着実に積み上げ、中計にてお示しした利益目標や成長投資を達成することが必須です。加えて、投資収益性を確保できる事業領域であるかどうかを適切に見極め、もしできなければ撤退するという判断も、次のステージにおいては一層重要になると考えています。

株主還元方針

 株主還元につきましては、当社は、株主の皆様に対する利益還元を経営の重要課題の一つと位置づけています。「5ヵ年ローリングプラン」の計画期間においては、5年間累計総還元性向100%を基本方針といたしましたが、当該期間の累計総還元性向は93.9%となりました。なお、2024年度に実施したBMW/MINI正規ディーラー事業の売却に伴う一時的な利益を除いた5年間の累計総還元性向は102.9%です。
 中計期間である2024年度からの3年間の株主還元につきましては、長期ビジョンの達成に向けた成長機会への投資を優先し、原則として1株当たり年間60円の安定的な配当を実施していくことを基本方針として定めています。また、営業キャッシュ・フローの増大分については投資に充当する計画としています。
 目標配当性向の設定や増配により、株主還元の強化を期待する声があることも承知しておりますが、本中計期間においては、再成長のための投資を優先し中計目標を確実に達成することで、株主・投資家の皆様に当社の中長期的な成長性を確信いただきたいと考えています。

企業価値向上に向けて

 管理統括として、資本効率を高めるキャッシュフロー・マネジメントと健全な財務体質の維持はもちろんですが、非財務資本も十分に勘案した上で、将来を見据えた経営判断を行うことが重要だと考えています。新たに発表した中計においても、オートバックスグループ全体で社会・環境課題を解決し、人的資本へ重点投資することで、さらなる経済価値を創造する方針を掲げています。
 私は2024年度より、IR対応として、投資家の皆様と直接コミュニケーションをとる機会が増加しました。時には厳しい言葉をいただくこともありますが、株式市場が今何を求めているかを知り、相互理解を深めることは企業価値向上に不可欠であると感じています。当社グループのビジョンと戦略についてステークホルダーの皆様に深く理解していただけるよう、財務・非財務情報の開示や説明会の機会等を通して、今後もより一層、誠実かつ信頼性の高い対話に取り組んでまいります。