2023年3月期連結決算の振り返り

 2023年3月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響により制限されていた社会経済活動が正常化へと向かい、個人消費は緩やかに持ち直しの動きがみられたものの、原材料やエネルギー価格の高騰および急速な円安進行による物価上昇による影響を受けました。

 また、国内の自動車関連業界の動向といたしましては、世界的な半導体不足の影響を受け減少していた新車生産台数は回復基調へ転じたものの、ウクライナ情勢や中国政府によるゼロコロナ政策は、部品の供給不足と物流の停滞を招きました。中古車においても、新車減産により下取り車の流通量が減少し、中古車登録台数は前年を下回る低水準で推移いたしました。カー用品関連においては、物価上昇の影響を受けたものの、寒波や降雪により冬季用品の需要が高まりました。

 このような環境下において、当社グループは、社会・クルマ・人のくらしの変化をいち早く捉えて適応することで市場競争力の向上に努め、より成長の可能性の高い領域への集中に加え、持続的成長に向け、ネットワークおよび事業基盤の強化と事業の推進を図ってまいりました。この結果、連結売上高2,362億円(前期比3.3%増)、連結営業利益117億円(同1.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益72億円(同3.3%増)と、期初公表計画を上回ることができました。

 セグメントごとにご説明します。国内オートバックス事業では、新型コロナウイルス感染拡大や物価上昇の影響を受けましたが、個人消費に持ち直しの動きがみられたことに加え、販売促進を強化したことなどにより堅調に推移いたしました。商品別にみると、タイヤは5月と9月に値上げを実施したものの、販売促進・品ぞろえ強化により、好調に推移いたしました。また、カーエレクトロニクス、車内用品は、新車減産により売上が減少したものの、サービスでは既存車のメンテナンス需要を獲得することができました。

 海外事業は、卸売事業を展開するオーストラリアにおいて、カーエレクトロニクス商品や無線機が好調に推移し、新たな卸売先の開拓や専売品の導入などの営業活動により増収増益となりました。小売を展開しているフランスではインフレの影響を受けたものの、価格の適正化や営業活動の最適化などの対策を講じたことにより、売上が増加いたしました。結果として、増収に加えて営業損失は縮小することができました。

 ディーラー・BtoB・オンラインアライアンス事業では、ディーラー事業は新車減産の影響を受けましたが効率的な運営に努め、前年同期を上回る営業利益を確保いたしました。BtoB事業は車検整備・タイヤ販売の子会社が堅調に推移いたしました。オンラインアライアンス事業は、販売チャネルの拡大やECサイトのサービス拡充により、売上が伸長いたしました。これらにより、同セグメントで増収に加えて黒字転換いたしました。

 冒頭に申し上げたとおり、売上・利益ともに期初に公表した計画を上回る決算でしたが、セグメントごとでみると課題も残しております。当社グループの持続的成長の実現のためには、既存事業の効率を向上しながら継続するだけでなく、成長領域への投資と新たな事業の育成も必要と認識しております。

 

 

5ヵ年ローリングプラン

 当社は「5ヵ年ローリングプラン」を2020年3月期よりスタートし4年目が終了しました。中でも財務戦略で重視していることは、投資収益管理の強化に取り組むとともに、引き続き事業ポートフォリオの見直しを行い、各事業単位の管理を強化することにより、資本効率を高めていくことです。実際に2023年3月期より事業単位でのROAを管理しており、事業統括責任者の評価の対象としています。5ヵ年ローリングプラン導入以降、都度、項目について見直しを図っており、2022年度においては、「1.必要運転資金・余剰資金」「2.資金調達」「3.投資収益管理の強化による事業ポートフォリオの見直し」「4.子会社に対する投融資の考え方」「5.資金運用」「6.株主還元」の6つのテーマについて方針を検討し推進してまいりました。「5ヵ年ローリングプラン2023」ではこの内、「5.資金運用」については当社のキャッシュポジションが過去とは異なり大きく減少していることから削除するとともに、その他の項目も一部内容を見直しております。

財務上の課題

 当社グループの持続的成長の実現のためには、既存事業の効率を改善しながら継続するだけではなく、成長領域への投資と新たな事業の育成も必要です。新たな価値創造に向けた挑戦を継続していく上では、事業の責任者である事業統括の評価制度の見直しを図るとともに、各事業をROIC(投下資本利益率)で「見える化」して管理できるよう、モニタリング体制を強化し、事業ポートフォリオの見直しや入れ替えを継続して実施してまいります。事業ポートフォリオの見直しや入れ替えにあたっては、事業の収益性や成長性はもちろんのこと、他事業との連携可能性、さらにその事業が社会課題の解決に貢献できるかどうかという視点も加えて判断いたします。そして、グループの強みを最大限に発揮できるよう、事業ポートフォリオの再構築を進めてまいります。また、これら事業ポートフォリオ見直しによる投資収益管理の強化と各事業単位での見える化による資本効率の向上に加え、「5ヵ年ローリングプラン」で明示した5年間の累計総還元性向100%とした安定的かつ機動的な株主還元を実施してまいります。

 また、資本コストを超えるROEを意識しておりますが、2022年3月期5.7%、2023年3月期5.8%とまだまだ満足できる数値ではありません。「5ヵ年ローリングプラン」5年目となる2024年3月期ではこれまでの種まきから、選択と集中、そして収穫の時期に移行していく必要性を感じております。まずは主力の国内オートバックス事業を中心に稼ぐ力をさらに高めていくと同時に、全社的な経費構造の見直しをさらに強化してまいります。また当社は経営のスピードを上げ各事業の進化を図りつつ、事業創造にも挑戦し、新たな機会を捉えるための変革に取り組んでおります。“これまでのオートバックスを超える”進化と成長を遂げるため、当社グループの進化の方向性を描く長期ビジョン「Beyond AUTOBACS Vision 2032」を策定しこれは長期的なビジョンで環境変化に適応し、事業領域の拡大と新たな事業の創造に挑戦するもので、2032年度に、連結売上高5,000億円を目指しております。それを実現するために、2023年度~2032年度の投資規模は約1,000億円と積極的な投資を実行する一方で、投資収益性の高い事業への入れ替えを検討していきます。

 

 

非財務資本の向上を財務価値向上に

 当社は、サステナビリティ経営を推進し、ESGの強化を図っています。ESG・SDGs推進プロジェクトを2021年にスタートし、企業の成長の源となる人材や、企業価値向上に向けた取り組みに注力しています。

 特に、人的資本に関する非財務資本においては、「成長し続ける組織・人財」をマテリアリティに設定し、国内オートバックス事業でも喫緊の課題である整備士の地位向上と育成や、多様な人材が活躍できる企業風土づくり、チャレンジを評価する仕組みづくり、健康で活力あふれる職場づくりなど、非財務目標に加え、それを達成するためのKPIを設定しています。これらは当社グループで取り組みを推進していくために、経営の執行を担う事業統括がリーダーとなり、それぞれが責任をもって実行していくスキームを立てています。

 また、CO2削減に向けた取り組みも進めており、サステナブルな社会の一企業として存在するために必要な責任として、取り組みを進めてまいります。

PBR(株価純資産倍率)の向上

 当社グループとして、将来の成長性をお示しできていなかったと感じております。この点について、まず2023年5月に長期ビジョン「Beyond AUTOBACS Vision 2032」にて10年後のありたい姿と売上高5,000億円、累計投資1,000億円をお示しさせていただきました。さらに現在、社内選抜メンバーによる中期経営計画の策定も検討を進めており、中期経営計画にて利益水準や成長投資等の詳細を公表させていただく予定です。会社の向かう方向性をお示ししつつ、資本効率を改善し、企業価値の向上を実現することで、PBR1倍以上に引き上げてまいります。

 

 

株主還元

 株主還元に関しましては、当社は、株主の皆様に対する利益還元を経営の重要課題の一つと位置づけております。「5ヵ年ローリングプラン」の計画期間である5年間累計の総還元性向を100%として、安定的かつ機動的な株主還元を基本方針としています。自己株式の取得につきましては、キャッシュ・フローの状況等を総合的に勘案し、資本効率と株主利益の向上に向けて適切な時期に実施を検討してまいります。

 「5ヵ年ローリングプラン」の終了期の2024年度以降は、前述でお伝えさせていただきました長期ビジョンに則り、10年間で累計1,000億円と積極的に成長に向けた投資をしていく計画となっております。成長投資を通じて営業キャッシュフローを最大化させるとともに、事業環境や業績、財務状況等を総合的に勘案した上で、引き続き、安定的かつ機動的な株主様への利益還元を行ってまいります。