小泉 私は前任の小林社長の頃から社外取締役を務めていますが、当時から、非常にオープンで自由にものが言える会社という印象でした。堀井社長就任後も、こうした良い社風は大きく変わっていないように思います。創業時からの強みであるFC本部とフランチャイジーの一体感も、しっかりと受け継がれています。堀井社長は組織改革にも積極的に取り組んでいますが、これからも自らのカラーを出して、より良い組織風土に変えていってくれることを期待しています。
松田 私はこの6月に就任したばかりで、以前との違いはわからないのですが、皆さんの意見を吸い上げて合意形成を重視するのが堀井社長のスタイルではないかという印象を受けています。会議などを見ても、皆さん積極的に発言されていて、非常にオープンな会社だという印象です。堀井社長のスタイルがこれから当社にどのような影響を与えていくのか、期待しています。
金丸 私も以前との比較は難しいのですが、堀井社長は「会社を変えたい」「改革したい」という意欲を強く表明する一方、強硬的に進めるのではなく、周りの意見をしっかり傾聴する姿勢をとっているように感じています。取締役会の議長としても、皆さんに意見を聞きながら進めていくというスタイルです。当社にはものを言いにくいという雰囲気はないように思いますが、今後、改革を推し進めていかざるを得ない局面が訪れたときに、どのように対応されるのか、注目したいと思います。
三村 皆さんがおっしゃるとおり、小林会長に遠慮して堀井社長がご自身の色を出せていないということはないでしょう。堀井社長は基本的に、率直な意見を発言させて、それを丁寧に、慎重すぎるくらいの時間を取って話を聞いていくというスタイルです。慎重かつ着実に物事を進めていくタイプですね。小林会長もそうだったのですが、その姿勢は、堀井社長になって、より強くなっていると思います。だからこそ、堀井社長がこれからどのように自らの思いを具現化していくのか、社外取締役として注視していきたいと思います。いろいろと新しいことを始める中、現場サイドでそれがしっかりと腹に落ちているのか、次世代のリーダーたちがどんな意見を持っているのか、それをもっとうまく汲み上げる方法はないのかといったことなどについて苦心しているようにも見受けられます。
三村 「5ヵ年ローリングプラン」では、残念ながら目標とした数字を達成することはできませんでした。ただ、この計画は小林前社長が主体となって動かしたものであり、堀井社長の成果は次の中計の結果で判断することになります。堀井社長には今回の結果を反省点として、次の中計は、きちんと現場の実行プランにまで落とし込んだ上で、自らがリーダーとなって推し進めてもらいたいと期待しています。計画を実現するには、いかにして社員に納得感を与えられるかが重要であり、そこで問われるのは、その受け皿となる組織基盤でしょう。「縦割りだった組織を、ビジネス単位で動ける組織に変える」「小売と卸売を軸にする」といった、いま進めている改革において、いち早く成果があがるように全社で取り組んでほしいと思います。
金丸 「FCチェンパッケージ変更」は、長年続いていたやり方を抜本的に変えるという意味で、非常に大きな取り組みの一つでした。フランチャイジーに対してロイヤリティ料率を引き上げるということは、ビジネスの構造自体を見直すとともに、フランチャイジーに対してそのロイヤリティに見合った価値を与えることができるのかが問われる場面でもあります。それぞれのフランチャイジーに納得してもらってFCパッケージを変更するというのは、非常に大変な作業です。こじれるのではないかと心配した時期もありましたが、堀井社長をはじめ、皆さんが丁寧に説明された結果、想定よりもスムーズな移行ができたという印象を持っています。重要なのは、フランチャイジーに商品を卸したらそれで終わりではなく、最終的にお客様に商品を届けるところまで、フランチャイジーと本部が一貫して同じ方向性を持つことです。「お客様に販売して、その時点で初めて本部もロイヤリティをいただきます。そこまで一体として考えましょう、同じ方向を見ましょう」というメッセージが、フランチャイジーの抵抗感を少しずつほぐしていったのだと思います。
松田 「5ヵ年ローリングプラン」の数字が未達だったことを踏まえて、次の中計をどう実現していくのかがポイントになってくると思います。しかも、次の中計にはかなりチャレンジングなところがあって、これまでの延長線上にはないものを目指しています。「5ヵ年ローリングプラン」を通じて得られた知見もあると思いますが、それを踏まえて、非連続の成長をどう実現するのかについて注視していきたいと思います。例えばDXでは、これまでの小売や卸売のビジネスとはまったく違う筋肉を使うこと、まったく違った発想が求められます。堀井社長がどのようにリーダーシップを発揮していくのか、注視していきたいと思います。
小泉 当社の利益の大半は国内オートバックス事業が稼ぎ出していますが、その国内オートバックス事業自体が「これまでどおり成長し続けるものではない」という厳しい環境下にあります。さまざまなブランドを立ち上げてチャレンジしていますが、個々のブランドや事業がそれぞれ単独で運営されているだけで、横のシナジーが期待ほど創出できていないという印象があります。また、今後拡大が期待できない国内市場で、何を軸にして事業を展開していくのかという姿が、「5ヵ年ローリングプラン」の当初の定量目標未達からも描ききれなかったと思います。一方で、「5ヵ年ローリングプラン」で掲げた6つのネットワークと5つの基盤は、堀井社長が掲げた長期ビジョン、そして次の中計を達成するためのベースになっています。これは、「5ヵ年ローリングプラン」の成果だったと認識しています。
三村 日本では少子化が進み、クルマの持ち方も変化しています。国内市場は、追い風を受けている状況ではありません。このことを踏まえると、中長期において「新しいオートバックス」を作っていかなければなりません。今まったく見えていない市場をどうやって顕在化させるか、いろいろな角度から取り組んでいかなければなりません。今はそのような時期ですから、2024中計で掲げた連結売上高 2,800億円というのは、ややストレッチした目標に見えるかもしれません。しかし、長期ビジョンで掲げた5,000億円と比べれば、まだまだ助走段階の数字です。
今後、市場の状況が変わったり、予期せぬライバルが現れたりするかもしれません。重要なのは、そのための布石を打っておくことです。例えば、EVシフトはインフラ整備の遅れなどもあって予想より時間がかかっていますが、最終的にはシフトしていくはずで、中でも、個人所有車両より稼働率の高い商用車の領域は電動化が加速するでしょう。その上で、EVについては、車両だけでなく、車両を取り巻く周辺についてもビジネスを作っておくことが重要です。プライオリティーをどこへ置くかは当社にとって重要な問題です。いつか来るEVの本格的な普及期に向けて、どのような準備をしておくか、しっかりと議論すべき時です。
金丸 EVや自動運転のような新しい技術やビジネスが出てくる時には、少し後から法的な問題、特に法的な規制が追いかけてきます。今後、予想できなかったようなトラブルが起きる可能性はありますが、それは、そのビジネスの参加者全員が負うリスクであって、当社だけが負うリスクでも、当社特有のリスクでもありません。新しいビジネスに積極的に踏み込む一方で、どんな世の中になっても「お客様のモビリティライフを支える」という信念を貫くために、常に情報をウォッチし、自らの立ち位置をはっきりさせておくことが求められます。
松田 DXに関してですが、EV化が進むとクルマの中がエンターテインメント化するという話があり、車内のユーザーインターフェース(UI)をどうデザインするかについては、面白いものがあるとみています。ただ、先ほども申し上げたとおり、DXでは卸売や小売とはまったく違う筋肉を使うことが求められ、発想を大きく変えねばなりませんから、堀井社長が当社のカルチャーをどのように変えたいのかがポイントになってくると思います。堀井社長には「この会社を変えていきたい」という強い思いがあり、私に対しては、ゲーム・エンターテインメントというまったく別の業界からの視点を求めているのだと思います。さまざまな角度からの多様な視点があることは、会社にとって強みになります。同じ発想だけでは、事業の広がりも出てきません。
小泉 中期経営計画の策定あたっては、「選択と集中」「ポートフォリオの組み換え」を積極的に進めるべきだという意見が、社外取締役を中心に出ました。国内オートバックス事業と親和性の高い事業については比較的理解しやすいですが、そうではない事業もあります。選択と集中をすべきです。中計の戦略骨子は「お客様とのタッチポイントを増やす」「魅力ある商品・ソリューションを開発する」「新たな事業ドメインを設定する」の3つですが、その中でも「お客様とのタッチポイントを増やす」は重要だと思います。クルマを「買う」「修理する」「乗り換える」というカーライフサイクルの中で、いかに多くのタッチポイントを作れるかという発想から、ディーラー事業や整備工場も展開しているわけ
ですが、最終的にはそれぞれの点をつないでいかなければなりません。またカーアフター市場が激変する中で、特に不採算な事業については、次の中計に向けてしっかりと精査した上で、事業継続の是非を判断していくべきだと思います。
三村 今のビジネスの延長線上では、事業の転換を図ることができません。ポートフォリオを変えていくためには、組織の形を変える、人の登用の仕方を変える必要があります。そうした提言は、これまでも社外取締役の立場でしてきましたが、執行役からすれば、受け入れられる提言もあれば、そうではないものもあるでしょう。しかし、会社が大きく変わるためには、大きな発想の転換が避けられません。
金丸 ジャンプアップするためには、限られたリソースをどう配分していくかが重要で、そのためにも「選択と集中」が必要です。これまでにない体制をとることで、社内にハレーションも生まれることもあるでしょうし、中計をまとめるには、苦労も多かったのではないかと思います。
三村 広く報道された「中古車販売大手による不正」によって、業界全体の体質に疑いの目が向けられてしまったことは否めません。当社でも実際に、店舗でお客様から不信感をぶつけられたケースもあったようで、取締役会にも報告がありました。しかし、当社はそうした会社とは対極に位置する、不器用なくらい真面目な会社です。特に中古車を扱っている部門は、外部機関の調査で「オートバックスは信頼できる」といった高い評価をいただいています。今後もこれまで以上に愚直に、この部分を強化していこうと考えています。
しかし、グループ関係会社やフランチャイジーが今後さらに増えていくと、コンプライアンスを隅々にまで浸透させるのは非常に難しい作業になってきます。社内だけでも大変なのに、M&Aで新たにグループ入りする会社にも浸透させていかなければなりません。こうした作業については、先進企業のやり方を学んで徹底していくしかないと思います。さらにはスピードも求められます。今回の中古車問題に限らず、ブランド価値が毀損するのは一瞬ですから。
金丸 当社としては、この問題を大きな教訓にすることができたと思います。コンプライアンスのチェック機能や、問題が起きたときのレポーティングラインをどうするかといった仕組みはすでにできていま
すが、この問題を機にあらためて見直すことができました。こうした仕組みが実効性のある形で機能しているかどうかを、定期的に見直していくことが重要です。保険会社と関係のある事業をしている部門には、不正の有無を確認しましたが、問題はありませんでした。その上で、問題点があるとしたらどんなことが考えられるか、コンプライアンスが浸透しているのかについても確認を継続しています。フランチャイジーについては、基本的に当社とは別の会社ですので完全にコントロールするのは困難ですが、オートバックスチェンのコンプライアンス方針をどうやって浸透させていくのかといった課題意識を持って取り組んでいます。
松田 コンプライアンスは、商品・サービスそのものです。商品・サービスが持つクオリティの一部だといえるでしょう。サービスを提供する以上、そのクオリティを上げていかなければなりません。コンプライアンスはできて当たり前、必要最低限のことで、クオリティを満たす一番下のレベルです。これはどの業界でも同じです。サービスを提供する以上は、お客様の期待に応えるものになっていなければなりません。
小泉 不正問題では、自動車関連業界全体で信頼を損なうことになったと思います。当社については真面目な従業員が多く、また、それを支える内部統制やコンプライアンス、リスクマネジメントなどの体制や、行動指針、行動規範などもしっかりと整備されています。こうした仕組みは上場会社であればどの会社も持っていますが、大切なのはそれが正しく機能しているかという「実効性」の問題です。体制を整備してマニュアルを整えたにもかかわらず、そこに安心してしまい、実行が伴っていないことが不正につながっていくと思います。この点については不断に見直しをかけながら、実効性を高めていくことが重要です。
フランチャイジーを含めたグループ全体で実効性を高めていくのは難しい部分もあると思いますが、堀井社長も不正については高い問題意識を持っており、FC経営者会議等を通じてグループ全体で不正防止に取り組む方針を発信しています。直営店もFCも同じ基準でコンプライアンスが浸透していかなければなりません。
松田 今まさに当社の「ESG・SDGs推進プロジェクト」について勉強しているところです。メンバーを毎期入れ替えている点、それぞれのKPIごとに横展開して推進するチームを設け、プロジェクトと事業部が一体となってKPIを推進している点などに工夫を感じています。具体的にどういう取り組みがなされ、それがどういう形で実を結んでいるのか、これからしっかりと報告を聞いていきたいと思っています。
三村 3カ月に1回、各々のチームのリーダーが事業統括者会議で進捗を報告する機会があります。いつも実直に報告してくださる姿勢はすばらしいと感じています。しかし、ESGの最終的な目標、すなわち「何のためにそれをするのか」を忘れてしまってはいけません。ESGは最終的に企業の業績や成長に結びつくものでなければならないと考えています。そうでなければ、定着もしないし、達成感を共有することもできないでしょう。さまざまなKPIを掲げていますが、その最終目標が会社の業績や成長であることを一人ひとりが理解した上で進めていくべきだと思います。
金丸 私は多様性、中でも特に女性活躍についての取り組み、例えば女性管理職比率などに注目するようにしています。項目によってはKPIを達成できず、苦戦している部分もあるようですが、それぞれの部門が責任をもって報告してくださるので、引き続き、進捗を見守っていきたいと思います。
小泉 早い段階でプロジェクトチームを作り、実際に事業を担当している事業統括を巻き込んで、事業と関連づけて進めてきたことを評価しています。ESGが当社のビジョンや長期的な戦略と結びつき、企業利益とつながり、各ステークホルダーの利益に資するものであり、継続的に企業価値が高まる、というサイクルをこれから作っていくのだと受け止めています。
三村 当社は「事業をやめる決断」をさらに進めなければなりません。大きな樹を育てるには、足元の雑草を刈る必要があります。やめるという決断をする、やめると決めたらマイルストーンを作って実行に移していくことを企業風土として定着させることが重要です。
バックキャストとは具体的に設計された将来計画をベースに達成までの実行マイルストーンを作り進めるものですが、当社は、数字はあるものの、そのような明確な実行プランが見えてきません。もっと、新
しい発想のもとにビジネスデザインを作っていくことを期待しています。
戦略は現在の延長線上では組み立てられません。また、人材は急に育成ができませんから、ある期間は、そのようなプラン構築に長けた人材を招き、当社の戦略性の強化を図る必要もあるかもしれません。
金丸 新しい事業や取り組みの事前検討をする際に、当該部署だけでなく横の連携をしながら全社的に取り組んでいくことが重要だと考えています。横の連携がないと、大きな絵が描けません。こうしたことができるスキルや人材を整えていくことで、より成長できると考えます。
松田 厳しい言い方かもしれませんが、中計はやや総花的であるように思います。本来なら、明確な戦略があり、その戦略のとおりに実行して、それが数字につながるべきですが、肝心な戦略の部分の輪郭がもっと明確であってほしいです。例えばM&A案件への取り組み方でいうと、大きな絵があって、それを実現するために個々のM&A案件があるわけですが、現状は「こういうM&A案件があって、ここにはめます」という部分最適になってしまっています。案件ごとに単独で考えているようでは、会社全体のエクイティー・ストーリーを描けません。投資家にもそのように見えているのではないでしょうか。明確な戦略意図をもつエクイティー・ストーリーにかなったM&Aになっているかなどを、もっと今後の開示や、決算説明資料などにおいて、積極的に発信することで投資家の理解が深まると思います。
小泉 攻めのガバナンスでは、社外取締役として業務執行取締役の意思決定の後押しができるように心がけています。一方、株主利益に資するかどうかがよく見えないM&A案件には、目的・ねらいの真因や投資回収の合理性などを確認し、意見をしています。守りのガバナンスでは、M&Aなど新しいことを始めると、コンプライアンスリスクが増し、経理部門の仕事が増えるなど管理コストが増えてくると、大きな不祥事が発生するリスクが高まる懸念があります。こうした点も社外取締役として注視しています。攻めである事業戦略の推進と守りであるガバナンス強化のバランスをとりながら、健全なリスクテイクによる企業価値の向上につなげて行くことが必要です。