長期ビジョンの実現に向けて
「お客様にとっての『モビリティライフのインフラ』をグローバルで目指す。」
この新たな方向性を掲げてスタートした2024中期経営計画も、最終年度を迎えました。おかげさまで連結売上高2,800億円の目標は1年前倒しで達成し、現在は新たな目標である3,000億円の達成に向けて取り組みを進めています。また、グループ店舗網の拡大も計画どおり進捗しており、2032年度に連結売上高5,000億円を目指す長期ビジョンの実現に向けて、着実に基盤を築くことができています。
しかし、私たちの取り組みは、単に売上や店舗数の拡大そのものを目指すものではありません。
私は、この数年間でオートバックスグループの成長の考え方を大きく変えてきました。その出発点となったのが、市場の捉え方を変えたことです。
従来、私たちはカー用品市場を主戦場としてきました。しかし、将来にわたる持続的な成長を考えたとき、カー用品市場だけを見ていては十分ではないと考えました。そこで、市場をモビリティ全体へと捉え直し、お客様のライフステージとライフスタイルに寄り添いながら、生涯にわたって価値を提供し続ける企業グループへの進化を目指すことを決めました。
この進化に欠かせないのが、お客様一人ひとりの顧客生涯価値の最大化であり、それを実現するための事業間シナジーの創出です。
市場を再定義し、お客様との接点を広げ、その関係を長期的な価値へとつなげていく。そして、そこで生まれるシナジーによって企業価値を高めていく。これが、2032年度の長期ビジョン実現に向けた私たちの成長戦略です。
市場を再定義し、成長の前提を変える
創業以来、私たちはカー用品販売を中核として成長してきました。しかし、新車の高性能化や純正装備の充実、所有形態の変化等によって、カー用品市場は縮小傾向にあります。その市場の中だけで成長を追求することには限界があると考え、私たちは市場の捉え方そのものを再定義しました。
私たちが向き合う市場は、個人や法人にかかわらず、お客様がクルマを所有し、利用し、整備し、乗り換えるまでのサイクルで生まれるあらゆるニーズです。
整備、車検、保険、車買取、車販売などを含む自動車アフターマーケット全体に目を向けると、そこには20兆円を超える市場が存在し、そのうち当社が事業機会として捉える領域は約10兆円に及びます。(図表1:市場構造の分析)
私たちは、カー用品販売、整備、車検、保険、車買取、車販売までを含め、お客様のモビリティライフ全体を支える企業グループへの進化を進めています。当社では、この姿を「総合モビリティアフター業」と表現しています。
カー用品販売を基盤として、お客様がクルマを利用する中で生まれるさまざまなニーズに応え続ける企業グループへ進化する。それが私たちの目指す姿であり、この市場再定義は長期ビジョン実現への第一歩でした。
「モビリティライフのインフラ」とは、お客様一人ひとりに寄り添い続けること
長期ビジョンでは、「モビリティライフのインフラ」という言葉を掲げています。
この言葉の本質は、お客様一人ひとりのライフステージやライフスタイルの変化に寄り添いながら、長期的な関係を築いていくことにあります。
カー用品を販売して終わるのではなく、整備、車検、保険、車の買取、そして車の販売へと接点を広げながら、お客様の移動と暮らしを支え続ける存在になること。それが私たちの考える「モビリティライフのインフラ」です。
その実現に向けて、中心的な役割を担うのが「整備」です。整備は、安全と安心を支えるだけでなく、お客様との継続的な接点を生み出し、長期的な信頼関係を築く基盤でもあります。
私は、最終的には整備士の人数と整備拠点のネットワークが競争力の源泉になると考えています。現在、当社連結では1,154名の2級整備士を擁し、フランチャイズチェーン全体では約4,000名の整備士体制を整えています。
長期ビジョンでは2032年度の年間車検台数目標を100万台と掲げていますが、国内車検市場は年間で約3,300万台規模です。当社の2025年度実績はまだ72万台であり、大きな成長余地があります。
また、「車販売」はお客様との新たな接点を生み出す重要な入口です。
一般的に、多くのお客様は車両を購入した販売店で、その後の点検や整備、車検などのサービスを利用されます。
私たちはこれまで、クルマを購入された後のカーライフを支えることを得意としてきました。しかし今後は、購入時点からお客様との関係を築き、購入後の整備や車検、買い替えに至るまで一貫して支えていきたいと考えています。
国内の中古車市場は年間約250万台とされている中、当社グループの販売規模は4万台弱です。車検と同様に、当社グループの市場シェアはまだ限定的であり、大きな成長余地を有する領域です。
長期ビジョンで掲げる「車販売15万台」の実現に向けて、拠点ネットワークの拡大や販売人材の育成を進めるとともに、販売後の整備や車検などグループ内サービスとの連携を強化し、お客様との長期的な関係構築につなげていきます。
お客様の顧客生涯価値を最大化
私たちが近年、積極的に小売店を中心としてお客様との接点を増やしてきたのは、お客様とつながる「点」を増やすことだけを目的としたものではありません。
目指しているのは、接点を持ったお客様のモビリティライフにおける顧客生涯価値を最大化することです。このために、店舗で生まれたお客様との接点を、継続的な関係という「線」へとつなぎ、さらにグループ横断で価値を提供する「面」へと広げています。
その結果として、お客様との関係をより深く、より長く育んでいくことを目指しています。
お客様は人生の中で何度もクルマを乗り換えます。進学や就職、結婚、子育て、そしてシニア期へと移る中で、必要とされるクルマや商品、サービスも変化します。
私たちは、その一つひとつの節目に寄り添いながら、お客様にとって最適な商品とサービスを提供し続けたいと考えています。
さらに将来的には、自動運転やマイクロモビリティの普及によって、免許返納後もモビリティとの関わりを持ち続ける社会が実現します。
このような社会において私たちは、お客様がモビリティと初めて接点を持つときから、人生のさまざまなライフステージやライフスタイルの変化に寄り添いながら、長期にわたって価値を提供し続ける存在でありたいと考えています。
シナジー創出による収益力の向上
私たちは近年、事業領域を大きく拡大しました。現在は事業の連携による価値の連鎖を生み出し、お客様との関係をより深く、より長く育みながら収益力を向上させる取り組みを進めています。
一つの事例として、中古車と中古カー用品における価値の連鎖があります。
当社グループでは、中古カー用品事業を展開しているため、カスタマイズされた車両を買い取る際も、パーツの価値を適切に評価できます。一般的にカスタマイズされた車両は中古車市場において低く評価される傾向にありますが、必要に応じて純正部品に戻し、車両としての価値を高めることも可能です。
さらに、買い取った車両は「オートバックス認定中古車」として販売し、その後の整備や車検へとつなげていくことができます。同様に、買い取った中古品はECサイトを通じて販売することで、再び価値を生むことができます。
このように、一つの取引から生まれた価値を次の価値へとつなげていくことが、私たちの目指す一つのシナジーの形です。
今後は、グループ内の各事業の連携をさらに強化し、お客様一人ひとりに対する提供価値を高め、シナジーの創出を加速させていきます。
シナジーを支える最大の資産は「人」
私は、市場再定義と顧客生涯価値最大化、そしてシナジー創出を実現するうえで最も重要な経営資本は人材であると考えています。
AIやDXの活用により、業務の効率化や自動化は今後さらに進むでしょう。しかし、そうであるからこそ、人でしか生み出せない価値はむしろ高まります。
私は、当社グループにおける人でしかできない仕事を「整備」「接客」「提案」の三つだと捉えています。
整備は、お客様の安全と安心を支える技術そのものです。接客は、お客様との信頼関係を築く基盤であり、提案は、お客様自身も気づいていないニーズを引き出し、最適な選択肢を提供する価値を創造することです。
例えば、どのクルマを選ぶべきか、今のクルマに乗り続けるべきか、それとも買い替えるべきか。そうした意思決定は、単なるデータやレコメンドだけで完結するものではありません。お客様一人ひとりのライフステージやライフスタイルに寄り添いながら、最適な提案を行うことが重要であり、そこに人ならではの価値があります。
また、整備事業の拡大を進める当社グループにとって、整備士は競争力の源泉です。私は、整備士の人数を増やすことだけでなく、高い技術や経験を持つ人材が後進を育成し、その知見をグループ全体へ継承していくことも重要だと考えています。
こうした考えのもと、当社グループでは人事制度の見直しやリスキリングの推進を進めています。従来の一律的な評価ではなく、それぞれの専門性に光を当て、一人ひとりが強みを発揮できる組織づくりに取り組んでいます。
さらに、高い技術を持つ整備士による人材育成の仕組みづくりや、フランチャイズチェーン全体への教育支援にも力を入れています。人材への投資は、品質の向上だけでなく、お客様との信頼関係の強化や顧客生涯価値向上にもつながる重要な取り組みです。
私は、「オートバックスグループの強みは人にある」と言われる企業グループであり続けたいと願っています。
シナジー創出による資本効率改善
資本コストや株価を意識した経営は、私自身が強い責任を持って取り組んでいるテーマです。2025年度のROICは5.7%となりました。中期経営計画では2026年度の目標として7%を掲げていましたが、足元の事業環境および投資状況を踏まえ、6%へ見直しています。
この数年間、私たちは成長基盤の再構築に取り組んできました。その結果、売上高や利益は着実に拡大し、事業ポートフォリオの変革も進んでいます。一方で、投下資本の拡大に対して、期待していた水準まで事業間連携による利益成長が追いついていないことも事実です。
特に、お客様との多様な接点を有機的に連携させ、顧客生涯価値を高めるという点においては、まだ改善の余地があると認識しています。
これまで進めてきた事業領域の拡大によって、多くのシナジーの種はすでにまかれています。事業間の連携も徐々に始まっており、今後はその成果をより明確な形で収益へ結び付けていく段階に入っていきます。
顧客生涯価値向上と事業間連携によるシナジー創出を加速させることで、収益性と資本効率を高め、その成果をROIC向上という形で株主・投資家の皆様へお示ししていきたいと考えています。
次期中期経営計画
私は、次期中期経営計画を単なる長期ビジョンまでの一つの中間計画とは考えていません。
むしろ、2032年度の長期ビジョンを実現するために最も重要な中期経営計画になると考えています。市場を再定義することで事業機会を見出し、成長基盤を再構築し、そして新たな事業領域へ挑戦する。これまで私たちは、そのための種まきを続けてきました。
次期中期経営計画では、それらを結び付け、これまでの取り組みを具体的な成果につなげていくことが重要になります。
市場を再定義することで広がった事業機会を、新たな接点へとつなげる。そして、その接点をグループ横断の連携によって価値提供へと発展させながら、お客様一人ひとりの顧客生涯価値を高めていく。こうした取り組みを通じて、収益性と資本効率の向上を実現していきたいと考えています。
また、これまでの改革は私自身がトップダウンで牽引する場面が多くありましたが、次のステージでは各事業の責任者やグループ会社の経営陣が主体となり、グループ全体でシナジーを創出していく経営へと進化させていきます。
次期中期経営計画の策定にあたっては、各事業の責任者が中心となり、それぞれの強みや課題を持ち寄りながら議論を重ねています。これによって、これまで築いてきた事業基盤を最大限に活用し、グループ全体で目標に向かって成果を創出していく体制づくりが進められています。
2032年度の長期ビジョン実現に向けて、次期中期経営計画は、グループ全体でシナジーを創出し、その成果を形にしていく極めて重要な期間となります。
私は、この挑戦を力強く後押ししながら、長期ビジョンの実現に向かう環境を整えてまいります。
ステークホルダーの皆様へ
オートバックスグループは、多くのステークホルダーの皆様に支えられてこれまで成長してきました。日頃よりご利用いただいているお客様、FC加盟店の皆様、株主・投資家の皆様、お取引先様、そして現場で価値創造に取り組むスタッフ一人ひとりに、心より感謝申し上げます。
私たちが掲げる戦略や計画は、現場で働くスタッフの努力と、お客様からの支持があってこそ実現できるものです。どれだけ優れた戦略や方針を掲げても、それを実行する人材と、それを支持してくださるお客様がいなければ、企業としての成長は実現できません。
だからこそ、お客様に「オートバックスがあってよかった」と感じていただくこと、そしてスタッフ一人ひとりに「このグループで働いてよかった」と思ってもらえる環境をつくることが、経営の重要な役割であると考えています。
私たちは今、カー用品販売を中心とした企業から、お客様のライフステージとライフスタイルに寄り添い、顧客生涯価値の最大化を目指す企業グループへの変革に挑戦しています。
まずは2024中期経営計画を確実に遂行し、次期中期経営計画においてシナジー創出をさらに加速させ、長期ビジョンの実現へとつなげていきます。
ステークホルダーの皆様には、今後も変わらぬご支援をお願いするとともに、これからの進化をぜひ一緒に見守っていただければ幸いです。
今後ともよろしくお願い申し上げます。